奇病日記

きのこは私の日常生活にも意外な変化をもたらした。きのこの魅力を知ってしまった私は選ばれた者であるという自信が、ひどく私を愉快な気分にさせていた。きのこの視線で世界を見上げれば、この世界は断然おもしろい、この発見もまた私を更に有頂天にさせていた。

変化といえば、私は何かを選択する時、迷うという事が殆どなかった。しかし選択する際、不思議な事が起こるようになっていた。これにしようと手に取るとコーヒーに浮かぶミルクのような渦巻きが回り始め、頭の中がグンニャリしてくる。ぼんやりした私が選んだものは、最初私が手にしたものからは真逆のものだった。以前の私なら絶対に選ばないものだった。しかしそうやって選んだモノ達は、予想もしなかった風を運んできた。その風は出会いやヒントを落としていった。時にその風は常識や思い込みを持ち去ったりもした。私はきのこのみせる不思議に完全に魅せられていた。人は時にトランプが裏返るように、人もまたひっくり返る事があるのかもしれない。いやひっくり返る。ひっくり返った方の私といえば、今までの私が最も嫌っていた事をうれしそうにやってのける、周りも驚いているが、一番私自身が驚いている。驚いてもいるが、やっぱり愉快この上ない。

そのきのこさんがやって来た。嬉しくて仕方ないといった風で、マスター私はとんでもない分解者を見逃していた、マスター私にどんな分解者か質問してくれと言った。私は言われるままに「どんな分解者ですか?」と質問した。そのきのこさんは、待ちきれない風で、「子供だ!子供!しかも言葉を話さない子ほど、すごい」と言った。すごいと言った声が裏返った。どういうことか聞いてみると、子供はこっちの世界に来て間もないから、とんでもなく前のことを覚えている、しかも子供は隙間を見つけては、あっちの世界とこっちの世界を行ったり来たりしているんだ、子供の後についていけば、私だってあっちの世界に行けるかもしれないと言い、そのきのこさんは店の中を落ち着きなくグルグル歩きまわり、私の前まで来たかと思うと手を差し出した。どうやら握手を求めているようだった。握手したら満足したのかバタバタと帰って行った。

はじまりははじまりは いつだってうずまきなのだから
はじまりははじまりは いつだってうずまきなのだから
はじまりははじまりは いつだってうずまきなのだから

そのきのこさんは歌のようなものを口ずさんでいた。私もそのきのこさんが帰った後、口ずさんでみた。口ずさんでみてはじめて数年前流行していた歌謡曲の替え歌だった事に気付いた。

kinoko20091 011