毛穴

Bolete Pores

某月某日
髪を切りに行く。
切られながら見ていると、床に散らばった黒や茶の髪を、ときどき幅広のホウキが、すー、すーと掃いていく。ちょうど目の前の壁の隅に横長の細長い穴があいていて、集められた髪はその中にどんどん押しこめられていく。
 あの穴は何と呼ばれているのか、と髪を切ってくれている人に質問すると(私は業界の符丁とか、そういうことにとても興味がある)、特に決まった名前はないという。
「”毛穴”って呼ぶようにしたら?」と提案してみたが、「考えときます」と体よくあしらわれる。

某月某日
髪を切りに行く。
いつも切ってくれる人に「あれから本当に”毛穴”って呼ぶことにしたんですよ!」と、にこにこしながら言われる。嬉しかったかというと意外とそうでもなく、馬鹿みたいな名前だと思うが、今さらそんなことは言えない。

きのこが気になってしまう人は
穴があったらやっぱり気になってしまう質の人なんですよね
ついつい奇妙なものに寄っていってしまう質の人なんです。