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このアリスの本小さい時からあった本でずっと物置に置きっぱなしになっていたので黴臭いです。でもこの菌臭がこれまたいいのです。あぁ自分は菌類なんだなと感じる瞬間です。

カビや茸の匂いーこれからまとめて菌臭と言おうーは、家への馴染みを作る大きな要素だけでなく、一般にかなりの鎮静効果を持つのではないか。すべてのカビ、茸の匂いではないが、奥床しいと感じる家や森には気持ちを落ち着ける菌臭がそこはかとなく漂っているのではないか。それが精神に鎮静的にはたらくとすればなぜだろう。
菌臭は、死ー分解の匂いである。それが、一種独特の気持ちを落ち着かせる、ひんやりとした、なつかしい、少し胸のひろがるような感情を換気するのは、われわれの心の隅に、死と分解というものをやさしく受け入れる準備のようなものがあるからのように思う。自分の帰ってゆくかそかな世界を予感させる匂いである。

『キノコの不思議』の中井久夫さんの文章です。

そしてやっぱりこのページは大好きです。
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