朝夕ずいぶん過ごしやすくなってきた。冬生まれのせいだろうか、私は夏が苦手だ。私ははこの時期から毎年活動的になる。今日は夏から試行錯誤してきたサンドイッチが完成した。スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチは予想以上の出来栄えだ。全てがうまく進んでいたんだ。あの女が来るまでは。

客が途切れた夕方あの女が入ってきた。西日の射す椅子に座った時思い出した。たしか2週間程前に一度来たことがあったはずだ。女はアイスコーヒーとサンドイッチを注文し、カウンターに飾ってある私の一番好きな絵葉書を見て「これ私も大好き」ときわめて自然な笑顔で話しかけてきた。私はつい油断して、必要以上に大げさな笑顔を返してしまった。あれがいけなかった。アイスコーヒーのグラスを用意する私の背中に向かって、女は待ってましたとばかりに話し始めた。
「人間というものは大体3種類に分けることがでるんですよ。この絵を飾っておられるということはマスターは大変に有望です。」
3種類???有望???何の話かさっぱり理解できないでいる私の困惑に気づいているのかいないのか、女はサンドイッチを食べながら一方的に話し続け、最後の一切れを食べ終え、これといった挨拶もないまま帰ってしまった。しかもアイスコーヒーを飲んでいない。なんだ、あの女。占い師なのか、なにかの勧誘なのか。どのような感情を抱いてよいのかさえも分からない私は、窓越しに赤く染まりつつある夏の終わりの空をぼんやりと眺めていた。